相続放棄は一度した後に撤回できる?——取り消しが認められる例外的なケース
家庭裁判所で受理された相続放棄は原則として撤回できません。例外的に「取消し」が認められるケースと、その手続き・期限をわかりやすく解説します。
相続放棄は原則「撤回」できない
相続放棄の申述が家庭裁判所に受理されると、その効力は原則として撤回できません。民法919条1項は「相続の承認及び放棄は、熟慮期間内であっても、撤回することができない」と定めており、放棄した後に「やっぱり財産を引き継ぎたい」と考えても、単に気が変わっただけでは覆すことができません。これは相続関係の法的安定性を守るための規定で、放棄によって相続の順位が変わった次順位の相続人や、他の関係者を保護する意味もあります。
「撤回」と「取消し」は別の話
撤回はできませんが、法律行為に瑕疵(かし)があった場合の「取消し」は別の制度として認められています。民法919条2項は、詐欺・強迫による意思表示の取消し(民法96条)や、制限行為能力者による法律行為の取消し(民法5条・9条・13条・17条)などの一般的な取消し原因がある場合には、相続放棄も取り消すことができると定めています。
取消しが認められる代表的なケース
- 詐欺・強迫によって放棄させられた場合:他の相続人にだまされて「借金しかない」と信じ込まされて放棄した、脅されて無理やり放棄させられた、といったケース。
- 未成年者が法定代理人の同意なく放棄した場合:親権者の同意を得ずに未成年者本人が単独で申述したようなケース。
- 成年被後見人等が単独で放棄の意思表示をした場合:判断能力が制限されている人が、後見人等を介さずに手続きを行ったケース。
- 錯誤による意思表示があった場合:財産の内容について重大な思い違いがあり、その錯誤が法律行為の重要な部分に関わると認められる場合(民法95条)。ただし単なる「財産を過小評価していた」程度では認められにくいとされている。
取消しの手続きと期限
相続放棄の取消しをする場合も、家庭裁判所に対して「相続放棄取消申述書」を提出する必要があります。取消権には期間制限があり、民法919条3項により「追認をすることができる時から6ヶ月」、または「相続放棄の時から10年」を経過すると時効により消滅します。追認をすることができる時とは、たとえば詐欺に気づいた時点や、未成年者が成人した時点などを指します。
単なる後悔では取消しは認められない
実務上もっとも多い相談が「思ったより財産が多かったので取り消したい」というケースですが、これは前述の詐欺・強迫・制限行為能力・重大な錯誤のいずれにも該当しない限り、取消しは認められません。放棄前の負債調査が不十分だったこと自体は、原則として取消しの理由にはならない点に注意が必要です。だからこそ、放棄を判断する前の段階で、負債の調査を丁寧に行っておくことが何より重要になります。
取消しが認められた場合、相続関係はどうなるか
取消しが認められると、相続放棄は最初から無かったものとして扱われ、放棄していた人は改めて相続人としての地位を取り戻します。ただし、その間に他の相続人が遺産分割や次順位の相続人への相続開始などの手続きを進めていた場合、法律関係が複雑になることがあり、取消し後の調整には弁護士など専門家のサポートが不可欠になります。
まとめ
相続放棄は「気が変わった」という理由だけでは撤回できませんが、詐欺・強迫・制限行為能力・重大な錯誤といった事情がある場合には、家庭裁判所への申述により取消しが認められる可能性があります。取消権には追認可能時から6ヶ月、放棄から10年という期限があるため、該当する事情に心当たりがある場合は早めに専門家へ相談することが重要です。
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